『気高い雄叫び』
「茉子!殿から連絡が入った。行けるな?」
「当然でしょ。あなたたちは?」
「勿論。そのためにいるようなものだしね。」
「僕も暴れていいんだよね?答えはきいてない!」
顔を見合わせ頷き、走り出そうとした四人の耳に、パーッとクラクションが聞こえた。
「おっす。急ぎなら送るぜ?」
声に振り返る。赤い車の隣に、髪がツンツンとはねた青年が笑って四人を見ていた。
「「「「あ。」」」」
「ちっす!マッハ全開、ゴーオンレッド!の江角走輔だ!久しぶりだな!」
「そういえばレーサー…なんだっけ?」
「おう!今日は相棒いねえけどスピードなら負けねえぜ!戦いに行くんだろ?乗って行けよ。」
「…頼む!」
「あ、でもこんなに乗れな…」
茉子の背中を嫌な汗がつたる。ウラタロスとリュウタロスは顔を見合わせる。
「人数減らすには…コレしかないよねえ?」
「うん!しょうがないもんね!」
言うが早いか二人はそれぞれ流ノ介と茉子に憑依する。
「じゃ、よろしくレーサーさん。」
「わーい車だー!」
「よし、飛ばすから振り落とされるなよ!」
流ノ介と茉子が後部座席に乗り込む。赤い車は猛スピードで道路を走りだした。
「ったく、出来た途端に呼びだしかよ。」
ショドウフォンを閉じて、千明は小さくため息をつく。
「場所はどこなんだ?」
「この近くらしいけど…ん?アレかも。」
千明が小屋の横の崖から下を見る。崖からしばらく離れた場所が、丈瑠に指示された地点のようだった。
「なるほど!この崖をまっすぐ降りて行ったら早いな。」
「義経じゃねえんだからやめてくれよ…って、おいおい…」
千明の目の前、小屋の横にさりげなく置いてあるのは緑色のハングライダー。そのマークを見て、千明はまたため息をつく。
「準備良すぎるだろ、ハリケンジャー…。」
「これで飛べばいいんだな?よぅし!行くぞ」
いそいそと用意を始めるデネブを千明がしがみついて止める。
「ちょっと待て!二人は無理だろコレ!っていうかマジでこれで行くのか!?」
「あ、そうか。」
手を止めたデネブにほっとした千明は、次の瞬間また顔をひきつらせた。
「じゃあ俺が千明に憑依すれば大丈夫だ!」
言うが早いかデネブは千明に憑依し、普段からは考えづらいスピードで準備を終わらせる。
「ようし。行くぞー!」
『ちょっと待って!ハングライダーやったことあるのか!?』
「ない!」
はっきり言いきって、千明はハングライダーを手に崖を見る。
『考え直せよ、おい!』
「いっくぞーーー!」
助走をつけた千明は、ハングライダーを持って崖の上へと飛び出した。
『これってただの飛び降りだろーーーーーー!!!?』
その叫びは、大空の中に吸い込まれた。
「キンさん、行きましょう!」
ショドウフォンを手にしたことはが真剣な表情になる。
「行く、のはええけど、どうやって行くんや?」
「えっと…走って行きます!」
走り出しかけたことはの耳に、聞いたことのある音が聞こえた。
「ん?デンライナー?」
キンタロスが上を見上げる。降りて来たデンライナーからナオミが顔を出し、手を振った。
「ことはさん!キンちゃん!乗ってください!」
「え、ナオミさん!?」
「テンチョウさんから連絡貰いました!デンライナーで送りますよ!」
「あ、ありがとうございます。」
「さすが、ナオミはやる時はやる女やで。」
二人が乗り込むと、デンライナーは静かに走り出した。
カキン、と固い音が響く。
丈瑠はシンケンマルを一度引き、ハクコツに向けてもう一度振り下ろす。
ハクコツはそれを白い棍棒で受け、力まかせに振りまわす。
「くっ…。」
咄嗟に下がった丈瑠は着地と同時にシンケンマルを構え直した。
「丈瑠!」
「走輔…か?」
自分を呼ぶ声に注意だけ後ろに向ける。車の止まる音がした。
「わー早かったねー!僕もう一回乗りたいなー。」
「あれ?なんかイマジンまでいるよ。それに…外道衆、だっけ?」
茉子と流ノ介が車から降りて来る。その様子に、丈瑠は思わず振り返りそうになった。
「カメ公と小僧じゃねえか。」
シニガミイマジンに蹴りを入れ、モモタロスが丈瑠の隣にやってくる。
「ん?何?ああ、代われって?ハイハイ。」
ウラタロスが流ノ介から離れる。流ノ介は大きく呼吸をしたあとウラタロスを睨みつける。
「お前達…どうしてそんなにのんきなんだ!」
「だって僕たちイマジンだもん。」
「理由になってないわよ…。」
リュウタロスから解放された茉子もため息をつく。
「なんか大変そうだけど、頑張れよ!」
軽く笑うと、走輔はそのままエンジンをかけ、走り出した。
「お前達…。」
自分の頬が緩むことに気が付いた丈瑠は、それが誰にもばれないよう、気を引き締めた。
「殿!お待たせしました。」
流ノ介が丈瑠の隣でシンケンマルを構える。
「先輩、どういう状況?」
「なんだかよくわかんねえけど敵だ!」
「わかるようなわからないような…。」
「モモタロスのばーか。」
「なんだと小僧!」
「うわーーーーーお!どいてくれーーーーー!」
モモタロスがリュウタロスに掴みかかろうとした時、空から声が聞こえた。
「ん?おデブ…ってどわあ!!」
モモタロスの立っていたところに緑色のものが落ちて来る。一回転して止まったそれは、人を乗せたハングライダー。
「千明!?」
「おデブ!何やってんだよ!」
そしてその下から出て来た千明は、頭をかいて笑った。
「いやー結構難しくて…。」
『いいから出てけ!』
デネブを追い出した千明はぐったりと膝に手をついた。
「千明、大丈夫?」
「姐さん…もう俺ホントこいつら嫌だ…。」
「…その意見に反対はしないわ。」
ワーン、と聞いたことのある音が聞こえる。赤い電車が、シニガミイマジン・ハクコツとその他の間を通り過ぎた。
「殿さま!」
「丈瑠。」
「よっす、丈ちゃん、お待たせ!」
「ことは、母上、源太。」
「よっしゃ行くでぇ!」
「みんな!」
「イマジンと外道衆か…。」
「ハナさん。」
「侑斗~!!元気にしてたか?」
「あっ!クマちゃん久しぶり~!」
デンライナーから降りた六人がシニガミイマジンとハクコツに向かい合う。
それを上空から見ていたオーナーは、デンライナーの中で呟いた。
「次の駅は、過去か未来か…。」
「オーナー、どうかしましたか?」
ナオミが首を傾げる。オーナーはひゅ、とスプーンを回して言った。
「そろそろ終着駅のようですねぇ。」
「どこに着くんでしょう、楽しみですね!」
無邪気に笑うナオミに、オーナーはゆっくりと微笑んだ。
「ええ、楽しみです。」
デンライナーの進む先の線路は途切れ、無数の線路がこちらにレールを伸ばしていた。
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暁も