月草雑記帳

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伝謳交響曲


第二楽章「譲れない想い」4話


とりあえず、3話まで読んでくれていらっしゃるでしょうか?
3話までのネタバレ大丈夫と信じて書かせていただきます。


オリジナルキャラクター二名、緋山香子(ひやま こうこ)さんと外村皐月(そとむら さつき)君が面白すぎて困ってます。メイン二人が静かだから、ちょっとしゃべるのが好きなキャラでバランスを…と思ったわけではないのですが(ないのかよ)、気に入っております。あともう一人メインが出る予定。ていうか、出ます。今回から。
ちなみに名前の由来はコーヒーと喫茶店です。決して五月蠅いから皐月とつけたわけではありませんいやマジで!正直この間書いてたら変換で爆笑したくらいですから!


伝謳交響曲第二楽章希望「譲れない想い」は、とある想いを主人公たちが再確認するというお話。
数えてみたところ、全8話になりそうな感じです。2010年エピソードレッドまでに起こった話をまとめた感じ。
なのでちょいちょい時間が飛びます。一応季節感を出す単語をいれるつもりですが、分かりづらかったらすみません。


ていうかこれ自分で書いておいてなんだけど…やりきれない!
それでもよろしい方のみどうぞ!






「譲れない想い」 4話


「お前さー…もしかして、愛理さんのこと、好きなの?」
 皐月の言葉に、侑斗は辛うじて口の中の珈琲を飲み込んだ。
「…お前は…どうなんだ」
「俺?」
 皐月がじっとカウンターを見る。つられて侑斗がそちらを見ると、そこには微笑んでいる愛理がいる。
「見ててわかんね?」
「…わかる」
 やっぱりかー、と皐月は椅子を傾け、天井を仰いだ。
「昔からの知り合いなのか?」
「んー、まあ。愛理さんが此処で修行してた頃から…ってか侑斗、俺の質問に答えろよ」
 視線だけを向けてきた皐月に、侑斗は目線をそらした。
「…見てれば、わかるだろ」
「まーね。あーやっぱりお前ライバルか。なーんとなくそんな気はしてたけど」
「お前、本気なのか?」
「は?何?俺がアイドル見てるみたいに愛理さん見てるって言いたいワケ?」
「そこまでは言ってない」
「言ってるようなもんじゃねえか!…まあ」
 皐月が椅子を戻し、コーヒー牛乳を飲む。侑斗も黙って珈琲を口に着け、同時に軽く息を吐いた。
「「眼中にないよな」」
 気付かれないように気を付けながら、二人はカウンターの方を盗み見た。


「愛理ちゃん、エスプレッソお願いします」
「はい、紀常さん。承りました」
 にこ、と笑い、愛理は店の奥に置いてある豆を取りに向かう。
 それを眺めながらクッキーに手を伸ばしているのは、一人の男性客。年は愛理よりも年上だろうか。そこそこ身長もあり、体格も良いにも関わらず、短く切った黒髪をくすぐったそうに手のひらで撫でる姿は、物静かで落ち着いた雰囲気を漂わせている。
「お待たせしました」
「ありがとう」
 愛理がカウンターに置いたカップを取り、香りを楽しんでから一口含む。
「おいしいね」
「ありがとうございます」
「やっぱり、自分の店を持ったのが良かったのかな。昔に比べて、味に深みがあるよ思うよ」
「そうですか?だったら嬉しいです」
「愛理ちゃんも大人になったんだし、その所為かもしれないね」
「紀常さんこそ、随分と貫録が付いたんじゃないですか?」
 楽しげに話す愛理と紀常を見ていた侑斗は、わずかに唇を尖らせる皐月を一瞬見て、聞いた。
「あいつ、紀常っていうのか?」
「そ。それが苗字なのか名前なのかは知らないけど」
「昔の常連客、とか?」
「そうなんじゃね?昔は俺、愛理さんしか目に入ってなかったし…ってかさ、そういうことは俺じゃなくて愛理さんに聞けば?会話のきっかけになるじゃん」
 はぁ、と皐月は大袈裟にため息をつく。机に突っ伏し、じろりと侑斗を見上げた。
「そうやってお前が愛理さんと紀常の会話の邪魔して嫌われてくれれば俺が愛理さんの恋人になれるかもしれないのに」
「…お前は親切なのか意地が悪いのかどっちなんだ」
「お前はライバルだっての。ライバルに塩は送らねーよ!あーあ。マジであの会話止めてくれよ誰か…」
 バックに可愛らしいお花でも飛びそうな雰囲気に、二人は為すすべもなくそれぞれのカップを空にした。


「あ、桜井!お前さ、七日の特別講義行く?」
 授業が終わり、教科書を片づけていた侑斗に、隣にいた男子生徒が声をかけた。
「…いや、止めとく」
「え、マジで?一年に一回の特別講義だぜ?天ノ川大学の教授が来るのだって珍しいのに、いろいろ珍しいもの持ってきてくれるらしいじゃん。俺絶対行くけどな」
「行けばいいだろ」
「わかってないな~。七夕と言えば青春イベント!この講義でのカップル成立率を知らないわけじゃないだろ?!」
「…知らない。っていうか、講義だろ?」
「講義だよ」
 変な大学だな、と呟く侑斗に男子生徒は軽く返事をした。
「ま、そういうわけでお前の隣にいたいわけよ」
「…は?」
 微妙に後退った侑斗に「変な意味じゃない」等言い訳をしてから、男子生徒は話を続けた。
「知らねーかもしれないけど、お前、此処ですっげーモテてるから。お前目当てに近づいてきた女子生徒とお知り合いになれるだろ?」
「…意味わからねーよ…」
「マジなんだってコレが。まあいいや。お前が来ないなら正攻法で行くよ」
「ああ。…後で内容教えてくれ」
「女子生徒とのお喋りの?」
「講義の」
「真面目だな桜井は。じゃ、俺サークル行くから」
 軽く手を振って別れた男子生徒の背中をしばらく見送ってから、侑斗は学生手帳に挟んだ二枚のチケットを取り出した。


 軽い鐘の音が鳴り、愛理は反射的に振り向いた。
「あら、桜井君。いらっしゃい」
「こんにちは。…ブレンド、で」
「かしこまりました」
 お湯を沸かして豆を挽いている間に、香子が小さな皿に載ったクッキーを差し出した。
「はい、常連さん。いつもありがとうね」
「いえ…」
 カウンターに座った侑斗と一瞬目が合う。侑斗は戸惑ったように目線を下へとずらす。そんな態度がなんとなく可愛らしくて、愛理は思わず微笑んだ。
「はい、ブレンドお待たせしました」
 固い音と共にカップをカウンターに置く。侑斗が小さく礼を言い、カップに手を伸ばす。
 その時また、軽い鐘の音が鳴った。
「いらっしゃいま…」
 振り向きながら発した言葉が舌の上で凍り付いた。そんな愛理の様子に気が付いた侑斗が入口を振り返り…そして同じように目を丸く見開いた。
 つばの広い、濃い色の帽子。この季節には珍しい、薄手のコート。
 そして何よりも、その雰囲気と背格好に、二人は思わず息をのんだ。
「あら?誰かと思ったら紀常君じゃない?」
「こんにちは」
 帽子を取った紀常は、いつものようにカウンターに座ると、自分を見ている愛理と侑斗に気が付き、軽く首を傾げた。
「愛理ちゃん…どうかした、かな?」
「…あ、いえ…すみません。いらっしゃいませ…紀常さん。香子さん、珈琲が切れそうなので、奥から取ってきますね」
 慌てたように奥へと引っ込んだ愛理を見て、香子と紀常は顔を見合わせた。
「何かあったのかしら?さっきまでいつも通りだったんだけど…」
「愛理ちゃんに何かしましたかね…私…」
 ふと顔をあげた紀常は侑斗を見つけ、一度ためらった後、話しかけた。
「えっと…君は、愛理ちゃんの知り合いなんだよね。何か…わかる?」
「……知らない。ご馳走様でした」
 カウンターに小銭を置き、侑斗は足早に店を出た。


 珈琲の香りが漂う倉庫で、愛理は一人座り込んだ。
 この場所は普段、香子が使っている場所だ。今は店に出ているから、誰が来るはずもない。
 電気のついた明るい倉庫で、それでも何も見えていない気がした。
 何度か棚に当たりながら進んだ倉庫の一番隅で、立ち止まる。
「ダメね…」
 膝を抱えて閉じた瞼に先ほどの光景が蘇る。
 店に入ってくる男性。そしてその男性に微笑みかける自分。
 その光景は、失った未来の記憶にとてもよく似ていて。
「…侑斗…」
 久しぶりに口から零れたその名前は、珈琲の香りに溶けて消えた。


 初めは早足で歩いていたが、やがて全力で走り出した。
 街中を走って走って走ってたどり着いた場所で、体を投げ出して空を見た。
 すっかり暗くなった空にかすかな光が見える。
 息が整う頃には、その光がぼんやりとかすんで見えた。
「…なんで…」
 かすんだ光の向こうに先ほどの光景が蘇る。
 店に入ってくる男性。そしてその男性に微笑みかける女性。
 失ったはずの未来にひどく似ているその光景が、胸の奥でズキズキと痛む。
「…なんで俺は…あいつじゃないんだ…」
 ずっと悩み続けているその言葉は、暗い空へと広がっていった。

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