月草雑記帳

電王捏造文章


『愛をこめて星空に』幾望


「あきなが」二日目です。いきなり日曜日を挟む羽目になってしまいましたが皆様いかがお過ごしでしょう。


今日の分はちょっと長めかもしれません。そして「夕月」から結構時間経ってます。その理由は追々…。


ちなみにデンライナーズは出てきません。話が脱線するし、出るとこ無かった…。でもまぁ別の「あきなが」に活躍の場があるので。勘弁していただくとしましょう…。


そういえば、投票もまだまだ受付中です。なんだかダントツで「日常系」が多いです。ていうかほとんどそれしかない。
…なんだか、このブログの傾向が見えたような気もします。なので「あきなが」、現時点では日常系が半分以上です。
なにか読みたいジャンルなどありましたら気軽に投票に参加してくださいませ!


では、前置きがそろそろうっとおしくなってきたでしょうし、どうぞ本編をお楽しみください。

『愛をこめて星空に』幾望


 数日後。
 いつも手伝いに行っている時間ではなく、閉店した後のミルクディッパーに、侑斗は一人尋ねていった。
 手には、青い包みが握られている。
 ドアの前で緊張して震える手を握り、深呼吸をする。
 そして、ドアに手をかけたその時。
「侑斗。」
 優しい声に手が止まる。
 自分の名前だけど、これは自分を呼んでいるのではない。
 それが、わかってしまっているから。
「聞いたわよ?良ちゃんの夢に出たんですって?」
 そっと扉の向こうをのぞき見る。彼女は望遠鏡の傍に座っていた。
「どうせ出てくるんだったら、もっと良い夢にしてあげればいいのに…良ちゃん、寂しそうだったわよ。」
 望遠鏡に話しかける彼女は、まるで神に祈っているかのようで。
「それにしても…良ちゃんの夢に出てくるなら、私の夢に出てきてくれればいいのに。」
 一筋の涙が零れ落ちる。
「私はもう、気にもならないの…?」
 その声に、前に進む事ができなくなって。
「侑斗…。」
 気付かれないように、扉を閉めた。


「侑斗?ご飯食べないのか?」
 食事の支度に見向きもしない侑斗にデネブが声をかける。
「んー…後で。」
「お汁冷めちゃうぞ?」
「んー。」
 侑斗はべたりと机に突っ伏して、青い箱を見つめていた。
「…なあ、デネブ。」
「?どうした、侑斗。」
「ちょっと、行きたい時間があるんだ。」
「おお?珍しいなあ。何処?」
「2006年。」
 その答えにデネブがきょとんと動きを止める。
「なんでだ?」
「いいだろ別に!」
「時間が変わんないんだったら良いと思うけど…あ!場所は?何処に行きたいんだ?」
「…ミルクディッパー。」
「な!侑斗、それは無理だ!」
「じゃあ希望ヶ丘。」
 不可思議な発言にデネブが侑斗に近づく。
「…侑斗?」
「…もう一回会っておきたいんだよ。自分に。」
「…それは無理だ。もう時間は変わって、桜井は消えた。もうその時間はどこにもないんだ。」
「ある。…それに、いる、いつまでも。」
「?」
「いい。ちょっと出かけるから着いてくんな。」
 がたんと立ち上がり、ポケットに青い箱を詰めて、侑斗はゼロライナーを出る。
「あ。侑斗ー?」
 デネブはしばらくドアを見ていたが、やがて溜息をついて夕食を片付け始めた。



 希望ヶ丘近くの野原には先客が居た。そしてそれが知り合いだと気付き、侑斗は躊躇いなく近くによって座り込んだ。
「侑斗?」
 野原で寝転がっていた良太郎が上体を起こして、侑斗を見る。
「珍しいな。」
「侑斗こそ…ここって、よく来るの?」
「全然。」
「侑斗が来るなんて思ってなかったから、びっくりしたよ。どうかしたの?」
「別に。」
「デネブが心配してたよ。デンライナーに探しに来てた。」
 不機嫌に短く返事をする侑斗を気にする様子も見せず、良太郎は話を続ける。
「でも此処、やっぱり晴れてる日に来たかったな。今日曇ってて、星が見えない。」
「…どうせもうすぐ満月だ。」
「?」
「月が大きくて明るすぎて、星はほとんど見えない。」
 星の話になると饒舌になる侑斗をどこかほほえましく思いながら、良太郎は空を見上げていた。
「なにしてんだ?」
 短い問いに、視線を上に上げたまま良太郎が答える。
「別に何も。」
「じゃあ此処じゃなくてもいいだろ。」
 誤魔化すな、と空気で言われて、仕方なく良太郎は話しだした。 
「ホントはね、桜井さんに聞いてみたい事があって、来たんだ。」
 特に返事を待っているわけではないらしく、良太郎は話を続ける。
「姉さんの事、どう思ってるのかなって。」
「…幽霊にも成ってないと思うぞ。」
「そうだね。元々死んだらどうなるのかなんて考えた事あんまりなかったけど。」
 とてもわかりやすい事実を述べるように。
 世界の常識を告げるように。
 良太郎ははっきりと言い切った。
「桜井さんは、死んでない。」
「…そうだな。」
 そしてそれを侑斗はすんなりと受け入れた。
「侑斗はどう思う?桜井さんは姉さんの事」
「あの人のためなら命も惜しくないって思えるくらいに好きだった。」
 ひと息にそれだけ言って、侑斗は空を見上げた。
「それだけは、間違いないだろ。」
「うん。そうだね。」
 しばらく黙って、言葉を紡ぐ。
「だからさ。」
 また少し言葉を選んで、良太郎は続ける。
「姉さんが他の人と幸せになったら…喜んでくれるかな?」
 しばらく沈黙が流れる。
「姉さんにとっても僕にとっても、侑斗と桜井さんは違う人だよ。」
 冷たい風が辺りを揺らす。
「侑斗にだって、そうでしょ?」
 雲に隠れて星は見えない。 
「桜井さんの事、自分だなんて思ってないんでしょ?」
「ああ。」
 はっきりとそう言って、侑斗は目を閉じる。
「違う。アイツは俺じゃない。…違うんだ。」
 確かに遺伝子やその他諸々の観点からすれば「同一人物」と言わざるを得ない。
 でも、彼と彼のたどった道は違いすぎた。
 価値観も、性格も、何もかもを分ける程度には。
 しかし、ほんの少し、同じものも、あった。
「彼女が好きなのも、俺じゃない。」
「…うん。」
 デネブなら確実に否定した事を、躊躇いながらも良太郎ははっきりと肯定した。
 それが悲しいと同時に何故か嬉しくなって、侑斗は野原に横になる。


「あーあ。」
 ちょっと大げさに言ってみてから侑斗はぐっと手を伸ばす。
「せめて、砂粒くらいの希望くらい残ってくれていればよかったのにな。」
 戦いでは流さない涙が落ちる。
「絶対に、駄目なんだろうな。」
 横になっているから涙も頬を伝って真横に落ちる。
「俺じゃあ…駄目なんだろうな。」
 どうしようにも、止められない。
「どうして俺は。」
 この涙も。
「あの人をこんなに好きなんだろうな。」
 この想いも。
「なんで今の俺は…未来の俺に、勝てないんだろうな。」
 流れ続けるそれは。
「どんなに未来に行ったって、追いつけるわけねえよ。」
 受け止めてくれる場所を求めて。
「絶対に…勝てない…。」
 ただただ流れ続ける。


「同じになる必要なんてないよ。」
 野原に横になったまま、目を閉じて良太郎が言う。
「侑斗は侑斗で大丈夫だよ。」
 その声はまた、あたりまえを教える親のようで。
「だってさ、侑斗は此処にいるじゃない。」
 冷たい風が吹く中も、暖かな声だった。
「此処に居続けられるなら、きっと、大丈夫だよ。」
「…ばーか。意味わかんねえよ。」
 良太郎が目を開けて、ふふ、と笑う。
「そうだね。」
 雲が少し切れて、小さな星が瞬くのが見えた気がした。

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